大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)13634号 判決 1993年2月16日

原告 株式会社高根計画

右代表者代表取締役 杉田憲康

右訴訟代理人弁護士 橋場隆志

被告 万里商事株式会社

右代表者清算人 中村寛治

被告 斎藤清

右両名訴訟代理人弁護士 日向隆

萩原剛

中島晧

田中和義

成瀬眞康

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金二〇〇〇万円及びこれに対する平成三年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

理由

一  原本の存在及び成立に争いがない≪証拠省略≫、成立に争いがない≪証拠省略≫、原告代表者尋問の結果により原本の存在及び成立の認められる≪証拠省略≫、原告代表者及び被告斎藤本人(後記採用しない部分を除く。)各尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、レジャークラブの建設等を業とする会社であり、被告会社(その前身である株式会社ビッグヒル新社)は、広告代理業等をする会社で、被告斎藤は、その代表者であったところ、昭和五五、六年頃、紹介する者があって、知り合い、取引をすることとなった。

2  原告は、被告会社にレジャークラブの会員権を買ってもらい、また、その広告を依頼することとなった。原告は、被告会社から、右会員権の購入等のため約束手形の振出しを受け、これを建設会社に対する支払いに充てるなどしたが、昭和五七年頃から、原告と被告会社は、資金繰りのため、互いに融通手形を交換するようになった。

3  被告会社は、当時、太平洋銀行との間で相互銀行取引約定を結び、被告斎藤は、その連帯保証人となっていたが、その取引額は、数億円余にも及び、また、原告振出しの融通手形を商業手形であるとして太平洋銀行で割り引いていた。

4  太平洋銀行は、原告及び被告会社に対し、太平洋銀行の被告会社に対する融資について五〇〇〇万円の限度で原告が保証するように要求し、その旨の書類として、原告の取締役会の議事録の提供を申し入れた。原告は、被告会社との取引を継続する利点があったので「被告会社の太平洋銀行からの融資五〇〇〇万円について原告が債務保証する。」旨の決議をした昭和五七年五月四日付原告の取締役会議事録等の写し≪証拠省略≫を太平洋銀行に差し入れた。

5  原告は、昭和五七年五月二五日から同年一二月二日にかけて、本件手形である被告会社を受取人とする額面各五〇〇万円の約束手形八通を振り出し、被告会社は、これを裏書のうえ、太平洋銀行で割り引き、その金員を使用した。本件手形は、被告会社振出しの約束手形により支払われるはずであったが、被告会社は、同年一二月二七日不渡りを出して、銀行取引停止処分を受け、倒産状態になり、本件手形も不渡りとなった。

6  太平洋銀行は、昭和五九年、別件訴訟を提起し、原告及び被告らを被告として本件手形金の支払いを求めた。

原告と太平洋銀行は、平成三年九月一七日の右口頭弁論期日において、原告は、太平洋銀行に対し、同日、二〇〇〇万円を、本件手形のうち別紙手形目録≪省略≫1ないし4記載の手形の支払いとして支払うこととし、太平洋銀行は、原告に対するその余の請求を放棄するとの和解をした。

以上の事実が認められる。

右認定に反する被告斎藤の「被告会社が銀行取引停止処分を受けるまでに支払うべき手形は、すべて決済されているし、原告に太平洋銀行からの融資の保証を依頼したことはない。」旨の供述及び≪証拠省略≫は、前掲各証拠に照らし、たやすく採用することができず、≪証拠省略≫のうち右認定に反する部分も同様である。

二  右認定の事実によれば、原告は、昭和五七年五月四日頃、被告会社の依頼により、太平洋銀行との間で、太平洋銀行の被告会社に対する融資について五〇〇〇万円の限度で保証契約を結んだものと認められる。確かに、その保証の様式は、≪証拠省略≫で認められる通常の銀行取引契約における保証契約の形式とは異なるが、前記認定のとおり、太平洋銀行からの要求によって、原告が取締役会議事録の形で差し入れたものと認められるから、このような様式であるからといって保証契約ではないとは、いえない。

そして、右認定の事実によれば、原告は、別件訴訟において、太平洋銀行から、実際は、融通手形である本件手形の支払いを求められ、二〇〇〇万円で和解をし、弁済したものと認められるところ、右の事実からみて、それは、同時に、本件保証契約における保証義務の履行として、これを払ったものと認められる。

そうすると、請求原因事実は、理由がある。

三  そこで、抗弁について、判断する。

1  抗弁1について

被告斎藤本人尋問の結果により成立の認められる≪証拠省略≫、被告斎藤本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

被告らは、昭和六三年四月八日、別件訴訟における太平洋銀行の請求について、同行との間で、本件手形の買戻債務四三九五万二〇一六円及びこれに対する年一四パーセントの遅延損害金の支払い義務のあることを認め、そのうち三〇〇〇万円を昭和六三年四月を第一回とし、同六八年三月まで、毎月末日限り五〇万円宛を支払い、被告らが右金員を支払った場合は、太平洋銀行は、その余の債権を放棄することなどを内容とする本件合意を、訴訟外でした。そして、本件合意において、右のような支払いの合意にもかかわらず、別件訴訟における被告らの地位には、変動はないものとされ、本件合意は、共同被告である原告には、知らされなかった。

右の事実によれば、主たる債務者である被告会社は、太平洋銀行との間で、本件合意をした事実が認められるが、その結果、主たる債務が変更したとはいえても、直ちにこれが消滅したわけではないし、また、そのような事実を認めるに足りる証拠もない。したがって、本件合意によって、直ちに原告の本件保証債務及びその履行による求償権が影響を受けるものとはいえないから、抗弁1は、理由がない。

2  抗弁2について

前記認定の事実によれば、被告らは、本件合意の存在を原告に秘していたもので、しかも、被告らは、別件訴訟において、被告として最後まで残っていたから、原告が太平洋銀行との間で和解をすることを知っていたものと認められる。

そうすると、原告が被告らに通知することなく、和解をしたとは認められないから、抗弁2は、その前提を欠き、理由がない。

3  抗弁3について

抗弁3の、原告が被告らの太平洋銀行に対する債務は既に昭和六三年頃に解決済みであることを知っていたとの点については、これを認めるに足りる証拠がない。したがって、抗弁3は、理由がない。

4  抗弁4について

前記認定の本件保証契約に至る経過、被告会社と被告斎藤の関係等を考慮すると、共同保証人である原告と被告斎藤との間において原告の負担部分は、零と解される。したがって、これと異なる抗弁4は、理由がない。

四  以上によれば、被告らは、連帯して、原告に対し、本件求償金として二〇〇〇万円及びこれに対する弁済の日である平成三年九月一七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による利息を支払う義務がある。

五  よって、本件請求は、理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅野正樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例